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  • ピックアッププレイヤー 2005-vol.05 / 中村 憲剛 選手

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PICKUP PLAYERS

目の前にある壁を乗り越え、それを繰り返してJ1に辿り着いたという中村憲剛。
J2からJ1へ──。初めて体感したJ1の世界で、自分がやるべきプレーを可能にするためになにが必要だったか。

「すごい楽しみです。明日は、頑張りますよ!」

 3月5日、開幕前日にそう言って麻生グラウンドを後にした中村憲剛の姿は、J1デビューとなるはずだった日立柏サッカー場になかった。前夜、宿泊先のホテルで突然の発熱に見舞われたからだ。

「夜飯食べるまではほんと何ともなかったんです。マッサージするころ、『あれ?』って思ったら熱があって。薬飲んで、いっぱい着こんで汗かいて着替えてって明け方まで繰り返してたら、当日の朝、少し下がってたけど、出場はやめようってことになって……。失意のまま、競技場にも行かずに車で帰りました。まじで、ショックだった」

 開幕以前のキャンプで、チーム内で風邪が蔓延していたときも、手洗いとうがいを徹底し、食事もしっかり摂り、心身ともに万全のコンディションで迎えるはずの開幕だっただけに、落ち込みは大きかった。

だが、J1のピッチまでは、さらに道のりがあった。

 柏戦を終え、練習に合流しホーム開幕戦での先発出場が濃厚だったが、今度は試合2日前に腰痛を悪化させてしまう。当日の朝まで治療を試みたが、痛みが引かず出場を見送った。


「100%できる自信がなかったし、みんなに迷惑かけたくなかったから、当日『できません』って監督に伝えた。悔しすぎて、涙が出ました。情けなかった。プロに入ってから、一番へこみましたね。スタンドから試合観てても、『オレ、なにやってんだろう』って」

 その後、順調に回復しスタメンに復帰した中村。J1でプレーする実感について聞くと、やっといつもの笑顔をみせ、次々と、その充実感について語りはじめた。

「楽しい。楽しいっすよ。最初はね、それまでと同じペースでプレーして取られることが多かった。フリーだなと思ってもすぐ寄せてくる。その寄せてくるスピードを公式戦で体感したことがなかったから」

 J1とJ2の違い? J2ではフリーで前を向ける状況のなかで、パスを散らす役割を担ってきた中村だが、J1においては、ないスペースをいかにかいくぐることができるか、自由さがないなかで持ち味を出せるか、が課題となってくる。

「相手が寄せてくる前に考えておかないと、選択肢が1個だとつぶされる。まずそこを消してくるから。だから、そこに近いところをもう一個考えておかないとだめ。ボランチのところで消してくるし取りにくるからね。それは、J2ではなかったこと。

前の選手もスペースがないなかをぬって顔を出しているから、できるだけそこに出してあげたいし。俺もたまに前でプレーするけど、きついところに顔出して『へい!』って要求して横とか出されちゃうと『なんだよ』って思うからね。だから、なるべく出してあげたい。そこでサポートにいけば別のところがあいてきて、チャンスにもなるし。テンポよくワンタッチ、ツータッチでとんとん回していきたい」

もしもいま、J2のときと同じように中村がプレーしているように見えたとしたら、それを可能にするための相当の努力があり、プレーの質が上がっているということになる。

「とにかく頭が疲れる。最後まで気が抜けないから。向こうもこっちのイヤなところや裏を突こうとしてくるから、それを読んだり考えたりしないといけない。あと、パスに気を遣うようになりましたね、やっぱり。パススピードを速くしないと通んないですからね、縦に」



 中村を際立たせるプレーのひとつに、1本で局面を打開するスッと伸びる縦パスがある。もし、そのパスが前線の選手に届く前にカットされたらカウンターを喰らうリスクにもつながるが、通ったときにはチームの武器となる。だからこそ、チャレンジする姿勢を中村は崩さないし、いかに通すかということに頭を使うのだ。

「うん。縦に入れるっていうのはすごい意識してますね。リスクがあるのもわかってるけど、そこで例えば、ジュニーニョに通って、スルッと前向いたらそこから同数で対決できるから。やっぱり自分の武器だし特徴だし、そういうところで自信を掴んでいくんだと思う。あとは、自分が思ったとおりのパスが何本つなげるかっていうのが、バロメーターになるんですよ。でも、ただ出してるんじゃなくて、次につなげるパスになるようにすごい考えてる。ジュニーニョひとりだけじゃ絶対に相手も来るし、どっちの足に出したほうがやりやすいか、とかまで考えるようになった」

 そこまで一気に話し、「でもねぇ…」とさらに続けた。

「まだ、ぜんっぜんダメ! 思ってはいるけど、出せてない。へたくそなんですよ。もっとうまくなりたいんですよ。俺のところで昨年みたいにフリーな状態になれば、もっとうちは強くなる。J1の激しいプレスのなかでもそれをかいくぐりながらパス出したりキープできたら、もっとチームが強くなると思う。だから、ミスした

ときにはなんでうまくいかないんだろうって考えるようになって、J2のときにくらべて試合のビデオをよく観るようになった。とくにミスしたプレーを何回も繰り返し観る。なぜミスがおきたのか、その前のプレーで自分はなにを考えていたのかっていうのを思い出しながら。トラップが悪かったり体の角度が悪かったりとか、もっとうまくやれたのになぁとか思う。昔から言ってるけど、ノーミスでやるのがベストだからね。

だから、サッカーに対してすげぇ貪欲になってる。そのために普段の練習から本当に求めていかないといけないし、頭の持久力というか考える持久力をもっとつけなきゃいけない。もちろん、練習と試合ではプレッシャーが違うんだけど。試合は、ほんと楽しいし充実してる」 代表選手とプレーで凌ぎを削る体験も中村の充実感をさらに濃いものにしている。とくに印象に残ったという、ガンバ大阪のボランチ、遠藤についてはこう語った。

「うまかった。俺にガッとくるわけじゃないんですけど、なんか常に見張られている感じ。あの人自体が全体を常に見張っている感じなんだと思う。要所のところやイヤなところにいつもいるし、ボールをもったときはすげぇ落ち着いてる。代表選手は違うんだなぁ。まだまだだなぁって思った」

 できないことや壁を乗り越え、一歩ずつステップをあがってきた。それはいまに始まったことではなく、サッカーを始めたころから中村が実践してきたことだ。そうやって、J1の舞台までたどり着いた。いつも前だけを見つめてきたせいか、中村はいい意味で“楽観的”だ。

「後ろ向きになる要素なんてない。だって、試合は続いていくんだもん。そうそう、ジーコがたまに試合を観るくるでしょう。代表に入りたいとかいう話じゃなくって、記憶に留めてもらえるプレーがしたい。『あの14番いいな』って少しぐらい思ってもらいたい。まだ自分が全然だめなのもわかってるんだけど、評価もしてもらいたい。そんなの甘ったれだけどね。有無を言わさず、みんなに『あいつはすげぇ!』って言われるようにならないと」

 それからふっと間があいて、ポツリと言った。

「俺ね、目標がわからないんです」

‐それは、どういう意味?

「いつもいつも先を追い求めている感じ。いつももっとうまくなりたいって思っていて、課題を見つけてそれを克服しての連続だから、どんどんやることが先にある。何歳になってもあいつは必要だって言われる選手でいたいし、やれるものなら40歳ぐらいまでやっていたい。きっと、求めるものがなくなったら、うん、たぶんそのときが引退するときなのかもしれないね」

 常に頭のなかに自分が思い描くイメージをふわっと膨らませている中村憲剛。そこに限りなく近づくための終わりなきチャレンジは続く。

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